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美しく見せる「モノ」がない?!

食べることが「苦」の行為になっていたり「薬」のようになっていては、心も体も満たされないのではないだろうか。食欲不振であっても食べる喜びをあきらめないで、たとえ少しの量であったとしても、そこに「喜」を感じることが “生きる活力” になると思うのです。

食欲不振のときは「食べたくない」状態だから、まずは見た目で「美味しそう」と思えるかどうかが食べる行動に影響を及ぼします。でも見た目を良く見せるには、それなりの料理とセンスが必要だと思いがちです。しかし毎日の食生活で特別メニューをつくることは非現実的ですし、普通の食事を少しでも美味しく食べられることが精神的にも安定をもたらしてくれるのではないかと思います。

食欲不振の時のアドバイスに、「美味しく見せる」具体的なアドバイスは余り見かけません。画像も残念ながら「美味しそうに」見え難いものです。メニューには凝っているのに、なぜ美味しそうに見えないのか? 量が少ないので普通の食器の大きさと形状ではバランスが取りづらいこと、どう見せるかが余り考慮されていないことなどが考えられます。

見た目を良くするには、食欲不振に合った「食器」を使えばいいのではないかと思いました。それは、少量でも満足できる、普通の食事でも美味しく見える、食べやすいメニューに使い勝手がよい、アイスやゼリーなどの補食にも使えるモノ。脱毛のときにウィッグが見た目をカバーしてくれるように、食欲不振のときにも食器がカバーしてくれるはずだと考えたのです。

食を美しく見せる「モノ」を作って、食欲不振でも食べる喜びを感じられる「食べ方」の提案を「具体的」にしていこうと思いました。こうして「五感食喜」という名の食器セットが誕生しました。

色から受ける、料理の見た目と心理的な影響

白釉(はくちゅう)の器には、誰もが親しみやすいほのぼのとした温かさを持っています。どんな料理や素材の色合いも大らかに包んで色鮮やかに美味しく見せてくれます。

また、緑は寒い冬を越えた後に訪れる春を象徴する色なので、待ちわびた色、新鮮さや始まりといった“生命力”を一番にイメージさせる色といわれています。また健康や食欲にプラスのイメージを与え、リラックスさせてくれる色とも言われています。

色によって、食物を映えさせたり心理的な影響を与えられたりしていることを利用し、食卓の色を工夫してみるのも食欲不振の対処方法として考慮してみてはいかがでしょうか。

食べることに喜びを感じること

特定の栄養素や成分が注目され、その切り取られた情報がテレビや雑誌をにぎわせていることに違和感を感じてしまいます。「食べることに喜びを感じること」を置き去りにすると、「生きている喜び」が置き去りになってしまうような気がするのです。

がんなどで食欲がなくなったとき、なぜ「少しでも口から、普通の食事を食べたい」と思うのでしょうか。

口から食物を「食べる」ことが生命力につながることを、私たちの本能が気付かせようとしてくれているのかもしれません。

器の質感から感じるもの

がんの治療中で食欲不振のとき磁器を使いたくなくなった、という声をたびたび耳にします。
それまでは何でもなかった食器の質感に突然嫌悪感を抱くとは不思議に思えますが、それは単に今までは質感から受ける印象に気付いていなかっただけかもしれません。

質感には、見た目の質感のほか、手触り、肌触り、口触りなどがあります。
見た目の質感は、陶器がやわらかさや温もりといった印象を受けるのに対し、磁器はガラスのように光った感じや冷たい印象を受けます。

茶道の抹茶椀に必ず陶器を使うのは、熱いお茶を淹れた器でも手で包み込めるから、というのはもちろんのこと、
陶器のやわらかな質感自体がお茶の世界を表現するために大事にされてきたのだと思います。

食器を手にとって食事をするという食文化の伝統があるからこそ、食器の質感を大事にし、手のひらから伝わる“感じ”をしっかり受け取りたいものです。

手で食べると、なぜか美味しく感じる不思議

手食(手づかみで食べること)では、食材の温度や感触が手から脳に伝わるため、箸やスプーン等を使うよりも情報量が増えてより美味しく感じると言われています。

がんなどの病気で食欲不振時に、おにぎり、お寿司、サンドイッチなどが好まれるのも、手を使うことを本能的に誘導されているのかも(?)しれません。

時には庭先やベランダに腰掛けて、子供の頃の遠足のように空、空気、季節を感じながらおにぎりやサンドイッチをつまんで食べてみてください。

ちょっと環境を変えてみること、五感を研ぎ澄ませながら食べること、食べることに少しだけゆとりをもって、生活の中に取り入れてみることをお勧めします。

器の匂い

食器の素材の匂いは自覚できなくても、何となく匂いを感じることはありませんか?
例えばプラスチック容器。

入院すると食欲がなくなるというのは良く聞く話です。
病院食も近年ではとても工夫が凝らされ美味しい食事の提供に力を注いでいますが、残念ながら食器は強化プラスチック製のままという病院が多いのが事実です。このことが、入院時の食欲低下に実は影響を及ぼしている可能性があります。

嗅覚は、常に自覚できる匂いだけを感じているわけではありません。
私たちは自覚できる範囲外の匂いを食器から捉え、それに嫌悪感を示している可能性があるのです。

食欲不振のときに陶器を選びたくなるのは、土の香りが漂よって自然を感じさせてくれるからなのかもしれません。

器から伝わるぬくもりと安心感

がん患者さんに伺った食事に関するお話で、食器の素材について不思議だな…と思うことがいくつかありました。そのひとつに、陶磁器が嫌になったというのがあります。

私たちが日常的につかっている食器は「石」が主原料の陶磁器というものですが、健康なときは何も思わなかったのに、食欲不振になると同時に陶磁器の食器が急に嫌になったというのです。そこで「土」が主原料の陶器を使ったと聞きました。

「石」と「土」の違い。

陶磁器はシャープで冷たい印象で手触りもガラスのようですが、陶器は「土」のぬくもりが目からも手からも伝わってきます。健康を害すると、心と体が欲するものを敏感に感じ取れるのかも知れないと思いました。

食欲不振のときはどうしても栄養素やカロリー、食材やメニューに気を取られがちですが、意外と食器が盲点だったりします。心地よく感じる器を使ってみるのも、実はとても大事なことかもしれません。

心地よい音で食べる

食欲不振のときは、アイスクリームやゼリーなど、スプーンを使うメニューが好まれるので、食器とスプーンがぶつかる音が耳障りにならないようにすることも食べることを心地よくしてくれる大事な要素です。

陶器は主成分が粘土で「土もの」なので、器の縁を指で弾いてみるとコツコツといった低い音がします。陶器と木製スプーンは共に音がやわらかく優しいので、ぶつかる音も心地よく感じますよ。

小盛には、和食器の長皿がよく似合う

食欲がない時は普通盛が多く感じてしまい、食べる気が失せてしまいます。でも少しの量にすると、お皿の中央でしょんぼりしている感じで美味しそうに見えません。

そうです、食欲には見た目が重要なのです。食欲がない時こそ「美味しそうに見える」ことが大事です。食べてからではなく、食べる前に「どうするか」を決めてしまうからです。

そんな時は、和食器の長皿を使ってみてください。長皿に「ぽん、ぽん、ぽん」と並べるだけで上品で美味しそうに見えるから不思議です。

この画像の長皿には、おにぎり、青菜と蟹風味かまぼこの和え物、玉子焼き、ブロッコリーを「ぽん、ぽん、ぽん」と盛っただけですが、品良く美しく見えませんか? 

特別なメニューではなくても、見た目を良くすると美味しそうに思えるのです。

お宅の食器棚のどこかに長皿はありませんか? 
小盛に合うので是非お試しください。

思った以上に五感の影響を受けている

私たちは、自分たちが思っている以上に五感に大きな影響を受けています。

逆を言えば、五感を上手に使えば自分自身に良い影響を与えることができる、ということです。

青い空を見上げて感動したり、澄んだ空気をおいしく感じたり、水がせせらぐ音に清らかさを感じたり、生き物に触れて命のぬくもりを感じたり。

すべての「感じ」はあなたの心と体の中にあるものですが、自ら感じようとしなければ意識されないものでもあります。

それは、「食」に関しても同じこと。

ものを食べるとき、私たちは「五感」を通していろいろな感じ方をしています。

五感を研ぎ澄ませ、そして感じることで、苦しくなってしまった「食べること」が再び色合いを取り戻し、ささやかでも心と体に喜びが湧き上がって欲しいと願っています。